千手観音とは|ご利益・ご真言・梵字─縁起物,木彫り,置物,千手観音菩薩

「千手観音」は、千の手と千の眼で人々を救う大悲の菩薩。
正式名が千手千眼観世音菩薩。三十三ある観音菩薩の変化身(へんげしん)の一つです。
千の手は「救いの手段を尽くすこと」、手のひらの千の眼は「どんな苦しみも見逃さないこと」をあらわしています。
「誰ひとり取りこぼさず救済する」。千という数は無量・無限の暗示です。

起源と変遷(インド→中国→日本)

千手観音の出自となる経典|千手経
千手観音の起源はインドです。
観音菩薩の慈悲が密教の展開の中で拡張され、
「千の手・千の眼」という極限の姿で表現されるようになりました。
依拠する代表的な書物は『千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経』という経典です。
唐の時代、7世紀半ばに西インド出身の僧・伽梵達摩(がぼんだつま)によって漢訳されました。
この経典に説かれる長い陀羅尼が、いまも禅宗などで日常的に読誦される「大悲呪(だいひしゅ)」です。
「観音様の慈悲」の思想を具体的な”救いの手の数”としてあらわした姿が千手観音です。

中国で広がった千手観音信仰
千手観音は、サンスクリット語でサハスラブジャ(Sahasrabhuja)。
「千の腕を持つ者」という意味です。
唐代の中国では密教が国家の庇護を受けて栄え、千手観音への信仰も広まりました。
大悲呪を唱えることで災厄を除くという実践が定着し、
「千手大悲」「大悲観音」という呼び名で、観音信仰の中心的な存在のひとつになっていきます。

造像の上では、実際に千本の手を表すことは難しいため、
四十二臂(ひ)─ 合掌する2本を除いた40本の手で表す形式が広まりました。
40本の手がそれぞれ25の世界(二十五有)の衆生を救うため、40×25=千、と説明されるのが通例です。

日本への伝来|実際に千本の手を持つ像
千手観音信仰は、奈良時代に密教経典とともに日本へ伝わりました。
大阪・葛井寺(ふじいでら)の千手観音坐像(国宝・天平期)は、
実際に1041本の手を持つ現存最古級の千手観音像として知られています。
また、唐招提寺金堂の千手観音立像(国宝)も、当初は実数の千本の手を備えていたと伝わる巨像です。

平安時代以降、千手観音は六観音のひとつとして、餓鬼道に苦しむ者を救う観音と位置づけられました。
京都・三十三間堂(蓮華王院)には、中尊を含む1001体の千手観音像が立ち並び、
「千の手を持つ観音が、千体」という圧倒的な光景が、いまも参拝者を迎えています。
干支との結びつきでは、子(ね)年生まれの守り本尊としても親しまれています。

マントラ・ご真言

この千手観音のご真言を唱えることで、
漏れなく救おうとする大悲の力が自分の内にもたらされると信じられています。

オン・バザラ・タラマ・キリク

梵字(種字)— 千手観音をあらわす文字の力

和様(真言・天台)では「キリク(hrīḥ)」が通例です。
護符・台座・背銘などにも刻まれます。

キリクは阿弥陀如来の種字でもあり、
観音菩薩が阿弥陀如来と深い関わりを持つ菩薩であることと響き合っています。

ご利益(現代の言い換え)

千の手を持つことから、「願いの種類を選ばない」観音様とされてきました。

厄除け・災難除け諸願成就 病気平癒
延命長寿開運招福 夫婦円満・縁結び商売繁盛

千手観音─手段を尽くして救う菩薩|千手千眼観世音菩薩

千手観音の本質は「救いから漏れる人をつくらない」という誓いにあります。
千本の手は、現実の腕の数ではありません。
薬を持つ手、武具を持つ手、蓮を持つ手、印を結ぶ手。
一本一本が異なる持物を携えているのは、一人ひとり違う人の苦しみからです。

苦しみの型が千通りあるなら、救いの手も千通り用意する。
手のひらに眼があるのは、差し伸べる前に、まずその人の苦しみを見るためです。
見てから、差し伸べる。この順序にこそ、千手観音の慈悲の質があらわれています。

観音様が三十三の姿に変化して人々を救うように、
千手観音はその慈悲を「数」という形で示しました。
どれほど多くの人が、どれほど多様な苦しみを抱えていても、
そのすべてに応じようとする意思が千の手と千の眼の正体です。

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