道教の星信仰に端を発し、日本で「人生の理想」を体現する神格へと進化した福禄寿。
「徳の累積が豊かさを生む」というアジアの思想が宿っています。
本記事では、ご利益や由来、ご真言、梵字などを通しての三徳「福」「禄」「寿」の名前に込められた本質を探ります。
福禄寿の起源─中国道教の三神から生まれた姿
福禄寿のルーツは、中国の道教にあります。
もともとはそれぞれ独立した「福星」「禄星」「寿星」という三神がいて、
それらが一体化したものが福禄寿です。
特徴的な長い頭は、「寿星」由来の姿であり、長寿と知恵の象徴。
巻物は人生の記録や徳の蓄積をあらわし、鶴、亀などを伴って描かれることがあります。
室町時代に七福神信仰の一柱として取り入れられ、福と禄(財)と寿を象徴する神として知られるようになりました。
ご利益─三徳をまるごと授ける老賢者
福禄寿は、「三つの星」をあらわしています。
福星(フーシン)・禄星(ルーシン)・寿星(ショウシン)実際に夜空にある星です。
※この寿星(ショウシン)に対応するのが寿老人です。
「延命長寿」「無病息災」 「福寿円満」
「財禄豊穣」 「功名富貴」「立身出世」
「家内安全」「子孫繁栄」「人徳充実」 「万事如意」
マントラ・ご真言─静かに唱える祈り
福禄寿は道教由来のため公式の真言はありませんが、
一部の寺院では以下のような真言が伝わっています。
オン マカシリ ソワカ
この真言 「オン マカシリ ソワカ」 は、吉祥天の真言「オン マカシリ ヤエイ ソワカ」と似ています。
これは、与格語尾 ‑ye(日本語梵音で「ヤエイ」)をあえて省いた短型です。
与格は本来「〜に捧げる」矢印を示す文法記号―吉祥天真言 「オン マカシリ エイ ソワカ」 では、‑ye が「吉祥天〈女神〉に」という外向きの帰依を明示します。
対して福禄寿では、対象を特定の神格に絞らず 福・禄・寿という三徳そのもの を直接活性化する
「内なるチューニング音」へ仕立てたため、与格が不要となりました。
「エイ」が入れば外在の女神へ捧げる祈り、抜けば内在の三徳を喚び起こす祈りとなります。
梵字─福禄寿を象徴する文字の力
寿老人は中国の道教に起源をもつため、公式の梵字はありません。
各寺社にて「シリー」(吉祥天)「バイ」(薬師如来)「アン」(普賢菩薩)の梵字が当てられることがあります。
まとめ─福禄寿に学ぶ、積み重ねる幸せ
福禄寿のたおやかな老人像は、奇跡を呼ぶ呪符ではなく、
小さな行いを積み重ねた人だけが手にできる三徳循環の生き証人のような存在です。
「福」は、他者への思いやりと感謝から生まれます。
毎朝「ありがとう」を声にする、週に一度は誰かの力になる
そんな優しい習慣を続けるほど、静かな喜びが日常の奥深くまで染み込み、心を潤します。
「禄」は、誠実な働きと学びの反復で育ちます。
昨日より0.1%だけ技術を磨き、得た収入の一部を再び成長へ投じ、約束を守る。
年月が信用と能力を複利で膨らませ、刹那的な収穫ではなく長く続く富へと姿を変えてゆきます。
そして「寿」は、節度あるリズムが支えます。
七時間の睡眠を守り、毎日三十分歩く。深い呼吸で脈を整え、週に数度は体をしっかり動かす。
こうした地味な養生が新陳代謝を整え、時間そのものを味方につける長命をもたらします。
思いやり・誠実・節度─この三つを「今日もまた」実践し続ける限り、福・禄・寿は互いに呼び合いながら同時に花開く。
それこそが福禄寿の長い額と穏やかな笑みに込められた、静かでゆるぎない教えです。


