はじめに─なぜこの研究をするのか
現代の暮らしにおいて、私たちの周囲は情報と色彩にあふれ、
あらゆるモノが「強く語りすぎる」傾向にあります。
銘木も例外ではありません。美しい木目や複雑な杢模様は、それ自体が力強く魅力的ですが、
同時に「視覚的な主張の強さ」が、現代の静かな美意識とはすれ違うこともあります。
私は、木の素材が持つ本質的な美しさを、もう少し静かに引き出す方法はないかを探っています。
今回の研究はその一環として、
木目の存在を透過させながら、あえて錆びや朽ちの質感をまとうという、
一見すると矛盾したような表現の成立を試みるものです。
問題意識:銘木の主張と、現代の美意識のズレ
従来の銘木の表現は、「いかに杢を際立たせるか」「艶を出すか」という方向性が主流でした。
しかし、現代の感覚では、そうした表現はやや過剰に映ることがあります。
私自身の体感としても、「目がチカチカする」と感じることがあるほど、強さがあります。
それらを消すのではなく、トーンを落とし、背景と馴染ませるような処理ができれば、
木目の存在感は失われることなく、生活に溶け込むむものになるのではないかと考えました。
研究の方向性─透過・錆・漆の組み合わせ
この研究の核は、以下の3つの要素をどう共存させるかにあります。
・錆びたようなマットでざらついた質感(風化・朽ち)
・木目や杢の模様が静かに透けて見える構造(素材の可視性)
・それらを成立させるための漆表現(伝統素材の応用)
つまり「漆を使いながら艶を控え、木目を覆うのではなく馴染ませる」ことが今回のテーマです。
錆やくすみのような風化した表面処理を施しながらも、木味が消えずにそこに残っている。
そのような表現を目指しています。
実験ログ(時系列記録)
📅 2025年3月3日|手を加えられる範囲を区分する
研究初期にまず整理したのは、どこに手を加えることができるかという点です。
そこで、以下の3点に分けて考えることにしました:
- 色のコントロール
- 質感のコントロール
- 素材(樹種)との相互作用
現状では③の検証はまだ手が回っておらず、①②に絞って小ロットで実験を進めています。
📅 2025年4月10日|制作物を「肉」としてとらえる
素材の扱い方を考えるうえで、「木を肉に見立てる」という感覚が有効でした。
以下のような3工程で整理すると、全体像が掴みやすくなりました。
- 肉に手を加える(焼く・着色・脱色)
- 皮膚をつくる(錆や粒子の付着層)
- 皮膚を定着させる(薄めた漆で膜状に仕上げる)
たとえば、砥の粉・地の粉・珪藻土などを水と混ぜ、漆と練り合わせて塗布し、
テレピンで薄めた漆で包むというプロセスを経ると、生きた朽ちのような表面が生まれます。
まだ確立された方法ではありませんが、方向性は見えてきたと感じています。
📅 2025年5月31日|顔料と染料の違いを踏まえた考察
素材着色の検証を進める中で、顔料と染料の性質の違いに着目しました。
- 顔料:粒子が溶けずに分散し、表面に「乗る」
- 染料:溶けて繊維に「染み込む」
木目に“馴染む”という点では染料の方が理にかなっているようにも思えますが、
これまでの経験上、顔料の方が発色と仕上がりの美しさが安定していることも多く、
今後はこの矛盾をどう扱うかが焦点になりそうです。
現時点のまとめ(2025年5月末)
わかってきたこと:
- 表面処理を「肉→皮膚→定着」として整理すると、考察が深まりやすい
- 粒子素材(地の粉など)と漆の関係性によって、錆び感や朽ち感が調整可能
- 顔料と染料は、発色と馴染みのバランスで用途を分ける必要あり
まだ見えていないこと:
- 樹種による差異(導管構造の違いによる反応差)
- 長期的な変色・定着の安定性(経年変化)
次にやること(2025年6月〜)
- 染料(植物染料、化学染料)の種類別テスト
- 粒子と漆の混合比率を調整した上での仕上げ検証
- 同一処理を異なる樹種で行い、比較記録をとる
読者の方へ
この研究は、銘木という素材の持つ美しさを、
現代の生活にふさわしい形で再編集する試みです。
もし、漆・木材・染色・粉体処理などに詳しい方がいらっしゃいましたら、
気軽にアドバイスやコメントをいただけると、とても嬉しく思います。
また、こうした記録を面白いと感じてくださった方は、
SNSやLINEでのフォロー・ご連絡も歓迎しています。
時間のかかる道のりですが、この道が誰かの静かな関心とつながっていると信じて、歩みを進めていきます。
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