明治以降の「銘木」の位置付けと変遷─令和以降の銘木の可能性

明治以降の「銘木」の位置付けと変遷ー令和以降の銘木の可能性

はじめに

「銘木」という言葉が一般に定着したのは、実はそれほど古いことではありません。
江戸時代にすでに珍重されていた木材は数多くありましたが、
それらが「銘木」と呼ばれるようになったのは明治以降です。

それ以降、人々の暮らしや価値観の変化とともに、
銘木の役割や意味も移り変わってきました。
本記事では、明治から令和に至るまでの「銘木」の社会的な位置付けや変遷を辿りながら、
今後の可能性について考察しています。

銘木とは何か

「銘木」とは、木材の中でも特に木目や色艶が優れた希少な素材を指す言葉です。
日本は古くから「木の文化」とも言われ、素材に込められた美意識や精神性が、暮らしや建築の中で育まれてきました。

「銘木」という言葉そのものが広く用いられるようになったのは、
明治30年代頃からとされています。
大正〜昭和期にかけて一般にも定着しましたが、
それ以前には明確な呼称はありませんでした。
「銘木」は、歴史的には比較的新しい言葉と言えます。

明治期─銘木概念の誕生と市場の成立

明治維新後、西洋建築の流入とともに、和風建築の価値も再認識されました。
床柱や欄間などに使われる装飾的な木材が「特別な素材」として扱われ始め、
この頃から「銘木」としての概念が形成されていきます。

それまで用途別に分かれていた「丸太屋」「唐木屋」などの材木商も、
明治末期には品目の垣根を超えて「銘木屋」として専門化し始めました。
東京では30軒近くの銘木商が存在していたという記録が残っています。

この頃、優れたものに「銘」を冠する風潮(銘茶、銘菓など)があり、
「銘木」という語も高級木材の象徴として定着しました。
北山杉やケヤキ板など、美しい木目を持つ素材が銘木として人気を集めるようになり、
天井板や化粧板など、銘木を取り入れやすくする技術も次々に開発されました。

大正〜昭和前期─銘木趣味の隆盛

大正から昭和初期にかけて、銘木は一種の「趣味」として社会に広まり、
特に富裕層の間で人気を博します。
和室に床柱や欄間を配し、希少な木材を用いることが財力や美意識の象徴となりました。

関東大震災後の復興需要もあって、東京では銘木店が600軒近くにまで増加した時期もありました。
大阪・鳥飼には銘木商が集まる「銘木団地」も誕生し、
全国から優良材が集まる一大市場が形成されました。

この時代、銘木は建築材に限らず、家具や美術工芸、唐木細工など多様な用途で取引されていきました。

戦後復興〜高度成長期─需要の拡大と多用途化

戦後の復興期、日本は深刻な住宅不足に直面します。
木造住宅が大量に建設される中で、和室需要とともに銘木の需要もピークに達しました。
昭和40年代には、住宅着工戸数が年間150万戸を超えるほどで、
床柱や天井板にケヤキやスギといった銘木が多用されました。

この時期、銘木は予約段階で完売することもあり、
市場規模は400億円を超えたとも言われています。
社寺建築向けには巨木の需要もあり、
銘木は建築・家具・工芸などさまざまな分野で活躍の場を広げていきました。

ただ同時に、加工技術の進化によって突き板合板や集成材といった新素材も普及し始めます。
銘木と代替材が併存する中でも、和室の普及に支えられて、銘木は一定の市場価値を保っていました。

現代 (平成〜令和)─需要低迷の背景と新たな展開

平成以降、住宅の洋風化が急速に進む中で、床の間や床柱のない家が主流となりました。
これに伴い、銘木の用途は大きく縮小します。
プレカット工法の普及や新建材の登場も、銘木市場の縮小を後押ししました。

銘木団地の店舗数も激減し、かつて120店を誇った大阪・鳥飼では、現在20店ほどが残るのみとなっています。
伝統建築の需要が低迷する中で、銘木は旧来の位置づけから脱却を迫られる時代に入っています。

一方で、家具やインテリアへの転用が進み、特に一枚板テーブルなどは再び注目を集めています。
希少材を使った家具は国内外の富裕層に評価され、音楽用の楽器、工芸品、アート作品などにも用途が広がっています。
小さな端材も、デザイン性のあるプロダクトに再生されるなど、多様な可能性が見え始めています。

まとめ

これからの銘木に求められるのは、過去の価値観をただ守るだけでなく、
現代の感性やライフスタイルに寄り添ったかたちで再発見・再定義していく姿勢です。
かつては和室の床柱や欄間に象徴されていた銘木の美。
ライフスタイルの変化にともなって、現在はダイニングテーブルやアート、インテリアなどにシフトしています。

大量生産や複製技術が進み続ける現代。その流れはますます加速しています。
そのような背景にあって、人工的に作り出せず、
100年単位の時間の経過を背後に持つ「銘木」には、見直される潜在的な要素を十分に備えています。

かつての役割を終えたということは、市場の縮小から見てとれますが
いかようにも姿を変えられるということが、木材の大きな特徴の一つです。

建築だけにとどまらず、家具、工芸、デジタルなど、領域を問わず、新たな文脈・デザイン・感性をもって、
「銘木」のあり方や意味を再構成することができれば
現代〜においても「銘木」は形を変えて人々の暮らしに溶け込むものを作り出すことはできるはずです。

銘木は、自然と人間の協働が生み出した文化資源であり、
それをどう受け継ぎ、活かすかは、この記事に最後まで目を通すほど木や銘木に関心をもつ、
私たち次第です。

「これはなぜ美しいのか?」
「なぜ惹かれるのか?」
「この素材に、どんな物語を重ねるのか?」
「銘木とは何か」
「どのような背景に置くと引き立つか」
「なぜ銘木が求められなくなったのか」

当たり前を疑い、問い続けることで、その糸口が見つかると信じて、
多くの方の心を惹きつける造形を形作ることができるように
倦まず弛まず、取り組んでいきたいと考えています。

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