花梨瘤という名前の裏側

花梨瘤─木がかたちづくる複雑で美しい華

本花梨とアフゼリア、日本で起きたすれ違い
花梨瘤(かりんこぶ)という言葉は、
日本の木工・工芸の世界で長く使われてきました。

美しい瘤杢、赤褐色の色味、硬質で磨き上げたときの艶。
その魅力に惹かれて、花梨瘤を探す方も多いと思います。
私自身も、これまで花梨瘤について解説する記事を書いてきました。
https://manakonooto.com/door-to-forest/karin/

これらの内容も一般的な定義としては正しい内容ですが
実際に材を扱い、削り、香りを確かめる立場に立つと、
もう一段、補足しておくべき重要な背景があると感じるようになりました。

本記事では、日本で流通する「花梨瘤」という名前の裏側について、
プロの目線で整理しています。

本当の花梨瘤=本花梨の瘤とは何か

まず、学術的に正しい定義から整理します。


本花梨とはマメ科 プロテカルプス(Pterocarpus)属の樹木です。
・インドカリン(Pterocarpus indicus)瘤が出る(市場に出ている本花梨瘤の約7割程度)
・ビルマカリン(Pterocarpus macrocarpus)瘤が出る(市場に出ている本花梨瘤の約2割程度) 
・アフリカキノ花梨、アンゴラ花梨 瘤が出る(市場に出ている本花梨瘤の約1割程度) 
・おうみ花梨 瘤はあまりない
・アンダマンパドック 瘤はあまりない

これらが、日本で言う「本花梨」にあたります。

このプロテカルプスの幹に生じた瘤が、本来の意味での花梨瘤=本花梨の瘤です。
これらがいわゆる、アンボイナバール(Amboyna burl)と呼ばれる瘤材です。
一部の目利きができる人間の間では分けて認識されています。

「本花梨の瘤=プロテカルプスの瘤=アンボイナバール」

ただし重要なのは、
プロテカルプスが瘤を形成する個体自体が、極めて少ないという事実です。
→本花梨の瘤は極めて稀少な材

日本で流通する「花梨瘤」の実態

ここが、多くの記事で触れられていない裏側です。
日本で「花梨瘤」として流通している材は、
現場感覚で見ていくと、
本花梨の瘤は全体の1割程度、
残り9割は、別樹種の瘤材と言われています。
その大半を占めているのが、アフゼリア(Afzelia)属の材です。

なぜアフゼリアが「花梨瘤」と呼ばれるようになったのか

理由は、非常に現実的です。
・本花梨瘤は、そもそも出ない
・需要はある
・見た目が極めて近い材があった

そこで日本に、花梨瘤の代用品としてアフゼリアが入ってきた
という経緯があります。

当初は「花梨瘤の代わり」として扱われていました。
しかし時間が経つにつれ、
・見た目が似ている
・瘤杢が美しい
・本花梨よりも入手がしやすい
これらの理由から、アフゼリアの瘤自体が「花梨瘤」と呼ばれるようになりました。

結果として日本では「花梨瘤」という言葉が
樹種名ではなく
見た目のカテゴリとして使われる
状況が生まれました。

香りで分かる決定的な違い

この違いは、実際に削る立場の人間でないと分かりません。

【本花梨(Pterocarpus)】
・削った瞬間に、甘く蜜のような香りが立つ
・鼻に残る
・香りがはっきりしている

【アフゼリア(Afzelia)】
・甘い香りはしない
・香りは弱い、またはほぼ感じない
・青さを感じることもある

香りの違いが決定的です。見た目は似ていますが、瘤材外側の棘の大きさに違いがあります。
花梨瘤は本花梨瘤よりも棘が大きいという違いがあります。
材面だけではほぼ区別ができません。

※アフゼリア瘤の方が大きくなりやすく、結果的に粒が大きくなりやすい傾向があります。木目の粒の大きさによって見分けられるとする説もありますが、判別の決め手にはなりません。

海外(特にアメリカ)での扱い

アメリカや欧州では、
・樹種を厳密に区別
・Pterocarpus と Afzelia を混同しない
・場合によっては、アフゼリアの方が高価に評価される
というケースも珍しくありません。

これは、
・瘤という希少性より
・材としての性能
・供給の安定性
を重視する文化的背景によるものです。

一方、日本では、
・「本花梨」という名称
・唐木文化
・名前が持つ象徴性
が、価格に強く影響します。

どちらが良い・悪いという話ではない

ここで誤解してほしくないのは、
アフゼリアが劣った材だという話ではないという点です。

アフゼリアは、
・非常に優れた材質
・瘤表情も美しい
・海外では高く評価される銘木
です。

名称と実体がズレたまま使われていることが
昨今有識者の間で問題視され始めました。
情報化による情報共有しやすくなったことが大きく影響していると思います。

補足 これまでの記事について

本記事は、これまでに書いてきた花梨瘤の記事を否定するものではありません。
一般的な定義を公開した身として、
花梨瘤の詳細な区分を補足する責任があると感じ、本記事を書きました。

一般的な花梨瘤の定義については以下の記事も併せてご覧ください。
https://manakonooto.com/door-to-forest/karin/

さいごに

銘木の世界では、名前がその価値や値段が決めることも少なくありません。
その意味で樹種の判別には責任がともないます。私自身、数多くの目利きのプロの方たちに助けられながら、これまでなんとか続けてくることができました。そうした蓄積をもとになるべく整理してまとめているのが本サイトの記事群です。
本記事が、花梨瘤という言葉をより深く理解する一助になれば幸いです。

花梨瘤(アフゼリア)
マカと呼ばれる木の瘤
東南アジア(全てアジア) 粒の細かいのが人気
道管の大きさが大きい
お腹全体がこぶ
粒が大きいかどうかは関係ない

タイトルとURLをコピーしました
//ブロック アンケートのURL送信のためのコード